前市長は下関市に対して8億4500万円支払えの判決下る!
平成六年(行ウ)第三号及び第五号各事件原告
森澤 昇
平成六年拒謗O号及び第五号各事件原告
西 政次
平成六年拒謗O号事件原告 植田 栄
右三名訴訟代理人弁護士田川章次
同臼井俊紀
同於保 睦美
平成六年(行ウ)第三号及び第五号各事件被告
亀田 博
被告補助参加人下閲市
右両名訴訟代理人弁護士中谷正行
| 主 文 |
| 一 被告は、下関市に対し、金八億四五○○万円及び内金四億六五○○万円に対する平成六年七月九日から、内金三億八○○○万円に対する同年八月一四目から、いずれも各支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。 一 訴訟費用中、原告らと被告との間に生じた分は被告の、原告らと被告補助参加人との間に生じた分は被告補助参加人の、各負担とする。 |
事実及ぴ理由
第一 請求
一 平成六年(行ウ)第三号事件(以下、「第一事件」という。)
被告は、下関市に対し、金四億六五○○万円及びこれに対する平成六年七月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 平成六年(行ウ)第五号事件(以下、「第二事件」という。)
被告は、下関市に対し、金三億八○○○万円及びこれに対する平成六年八月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要及び経過
一 概 要
本件は、下関市が、目韓高速船株式会社(以下、「本件会社」という。)に対し、補助金として、平成六年四月一四目に四億六五○○万円(第一事件)を、同年五月二五目に三億八○○○万円(第二事件)を、各交付したことが、いずれも地方自治法二三二条の二にいう「その公益上必要がある場合」の要件を満たしておらず、違法であるとして、下関市の住民である第一及ぴ第二各事件の原告ら(以下、併せて「原告ら」という。)が、同市に代位して、右各補助金交付当時、同市の市長であった被告に対し、不法行為に基づき、同市に対し、右各補助金の交付に係る損害賠償金の支払をするようそれぞれ求めたところ、同市において、被告の補助参加人(以下、「補助参加人」という。)として補助参加した事案である。
二 審理の結果認定し得る事案の経過
1当事者
(一)原告らは、いずれも下関市の住民である。
(二)被告は、平成三年四月三○目から平成七年四月二九目までの間、下関市長の職にあった者である。
2 本件会社及び裸傭船契約
(一) 本件会社は、昭和六二年、当時の泉田市長の発案、計画の下、下関市と大韓民国釜山市(以下、「釜山市」という。)との間に高速船を就航させ旅客の海上輸送をすること等を目的として、平成二年一一月二日、下関市と民間企業及び個人が出資して設立した第三セクター方式の株式会社であり、平成三年七月三一日より、同市と釜山市の間に高速船を就航させ営業を開始した(以下「本件事業」という。)。
本件会社は、平成三年三月二九目、関西汽船株式会社(以下、「関西汽船」という。)との間で、本件事業に使用する船舶(船舶名・ジェット8、以下、「本件船舶」という。)につき、以下の内容による裸傭船契約(以下、「本件裸傭船契約」という。)を締結した。
@船 主 関西汽船
A傭船者 本件会社
B傭船期聞 平成三年三月二九日から平成七年三月二八日まで
C傭船料 平成三、四年度 月額二八三二万五○○○円
平成五、六年度 月額三○九○万円
(三) 本件会社は、設立当初から厳しい経営伏況を余儀なくされたため、山口県からの出資ないし下関市内の一般企業からの公募により、平成三年八月二六日には、資本金を、それまでの二億二三○○万円から四億一五○○万円に、平成四年四月二七日には、更にこれを四億八八○○万円に、それぞれ増資し、また、金融機関からも合計三億八○○○万円の借り入れを行うとともに、平成三年九月二七日には同市の制度融資八億円及び平成四年九月二八日には同市の直接融資一○億円を、それぞれ受けた。
しかし、本件会社は、これらの措置によっても業績が好転せず、平成四年一二月一日、高速船の運航を体止して、平成八年三月二八日、山口地方裁判所下関支部に破産宣告の申立てをなし、同年四月一二日破産宣告を受け、平成九年三月七日破産手続の終結に至った。
(四) 本件会社は、右運休後、関西汽船から、本件裸傭船契約に基づき、平成四年一二月から契約期間満了時である平成七年三月二八日までの間の傭船料等合計一三億三三一五万八八七一円の請求を受けていたが、平成六年三月一○日、両者の間で、本件会社が関西汽船に四億六五○○万円を支払うことにより、本件裸傭船契約を合意解除する旨の合音心が成立した。
3 補助金の交付
本件会社は、平成六年三月一○日、下関市長であった被告に対し、本件裸傭船契約の合意解除の清算金四億六五○○万円及ぴ金融機関からの三億八○○○万円の借入金の合計八億四五○○万円について、これを支払うためには下関市からの補助に頼る以外資金捻出の方法がないとして、同金員を、同市が補助金として、本件会社に対して交付するように要請したところ、これを受けて、被告は、同市平成六年第一回定例市議会に右金員を本件会杜に補助金として交付するとの補正予算案を上程し、同月二八日、これが可決された。
被告は、右決議に基づき、本件会社に対し、平成六年四月一四日、四億六五○○万円の、同年五月二五、三億八○○○万円の、各補助金を交付した(以下、右両補助金を併せて、「本件補助金」という。)。
4監査請求及び訴訟提起
(一) 原告らは、第一及び第二各事件のそれぞれにつき、下関市監査委員に対し、地方自治法二四二条一項に基づく住民監査請求の手続を経た上、右各事件に係る本件各訴訟を提起した。
(二) 補助参加人は、右各訴訟につき、被告を補助すべく補助参加した。
第三 争点に対する判断
一 争点
本件の争点は、
@本件会社に対する本件補助金の交付に違法性があるか否か、すなわち、本件補助金の交付が、補助金交付の根拠規定である地方自治法二三二条の二所定の「その公益上必要がある場合」(以下、「公益性」という。)という要件を満たさないものといえるか否か、
A 本件補助金の交付に関し、被告に故意又は過失が存したか否かということである。
二 争点に関する当事者等の主張
(争点@について)
1 原告ら
(一) 本件会社の性格
本件会社は、いわゆる第三セクター方式によるとはいえ、株式会社として設立されたもので、民間企業が主体として運営する営利企業という性格を強く有するものであったことは明白である。
(二)公益性
補助金交付の要件としての公益性とは、当該普通地方公共団体の住民の福祉の増進に有益か否かという観点から判断すべきところ、本件会社の性格は、前記(一)のとおりであり、本件会社が、高速船を下関市と釜山市間に就航させるという点において、過去に下関市民の福祉の増進に有益な面があったとしても、それは、その就航を続ける限りにおいてである。
しかるに、本件会社は、本件補助金の交付時点において、既に営業を一切しておらず、かつ、以後これを再開して高速船の就航をなし得る可能性は全くなかったところ、このことを当然の前提とした上で、前記四億六○○○万円の補助金は、過去の傭船料等の清算金を関西汽船に支払う財源として、前記三億八○○○万円の補助金は、本件会社が過去に金融機関から借り入れた金員を返済するための財源として、それぞれ交付されたものであるから、本件補助金の交付により下関市民の福祉が増進されることは全くあり得ない。
2被告及び補助参加人
(一)本件事業及び本件会社の性格
本件事業は、下関市ないし当時の泉田市長の発秦によって計画され、その主導によりこれが実践され、具現化されたものである。 したがって、かかる実態に即してみれば、本件事業は、下関市の事業あるいは同市の事業と一体の事業ないしは、終始、同市が主導した事業であり、官民共同出資の第三セクター方式という事業の遂行形態はあくまで形式にすぎない。
なお、本件裸傭船契約は、関西汽船が当初この契約に乗り気ではなかったことから、泉田市長において、「万一問題が生じた場合は、同社(本件会社)とともに、責任をもってその解決に努力致します。」という内容の平成三年二月一九目付け書面(以下、「本件確認害」という。)を閲西汽船に対して差し出し、いわば、下関市が拝み倒す形で締結された経緯がある。
(二)本件補助金交付の公益性
(1)本件補助金交付の目的が、本件会社の債務整理にあったことは、被告も否定するものではないが、本件事業は、下関市の事業あるいは同市の事業と一体の享業、ないしは、終始、同市が主導した事業であり、この点については、被告及び同市のみならず、一般市民や、本件会社の役員、株主、貸付金融機関、関西汽船、連帯保証人等の関係者も、同様の認識に立っているものと考えられる。
(2)したがって、本件事業が失敗に終わった場合の債務整理についても、下関市がその責任の下に行うことによって、信頼を維持すべきことは当然であり、このことが、まさしく公益性ありということの要点である。
(3)このように解さなけれぱ、下関市は、今後、第三セクターを採用しての事業に誰からの協力も得られないことは明白であるとともに、金融機関からの支援も受け得ないこととなる。のみならず、本件会社の債務を破産法のみによって処理することになれば、第三セクターを採用している全国の地方公共団体に多大の迷惑を投げかけ、その協力者に重大な不信感を与えることになることは必至である。
(争点Aについて)
1 原告ら
被告は、前記(争点@について)1掲記の各事実関係を知りながら、あえて違法な本件補助金の交付を行ったものであり、この点につき、故意又は過失が存する。
2 被告及び補助参加人
原告の右主張は否認する。
三当裁判所の判断
(争点@について)
1 本件会社は、第三セクターではあるものの、その設立の経緯、設立後の動向及び下関市の有する資本比率に照らした場合、地方公共団体ないしはそれと同視し得るものとは異なり、株式会社として、同市の行政組織とは無関係の民間企業的な性格を有するものといえる(この点は、内簡文書にとどまる本件確認書の存在をもって左右されるものではない。)。
2 本件補助金交付の公益性
(一) 本件補助金交付の経緯
本件補助金交付の経緯は、前記第二、二3掲記のとおりである。
(二) 本件補助金交付における公益性の有無
(1)本件補助金の交付当時において、本件会社は、その唯一の収入源である高速船の運航を既に一年四か月ないし五か月間体止しており、かつ、本件裸傭船契約の解約により運航再開の見込みも全くなくなっていたのであるから、これを再開することによる地域の活性化や、下関市民の利便性といったところの本来目指していた利益が存在しなくなっていることは、被告及び補助参加人も争ってはいないところである。
(2)また、本件補助金を本件会社に交付したことにより直接的に利益を受けたのは、関西汽船及び金融機関からの借入金に係る連帯保証人らであるところ、右連帯保証人らは、いずれも営利を追求する法人ないしは個人であることから、これらの者が自ら下関市住民の福社の増進に影響を与えたり、あるいは、これらの者に右利益を与えることによって、同市住民の福祉が増進したという関係を有するものでないことも明らかである。
(3)ところで、被告及び補助参加人は、下関市の信頼の維持が、まさしく公益性である、すなわち、本件補功金を本件会社に交付しなければ、今後、同市が行う第三セクター事業に、誰からの協力も得られなくなることは明白であると主張する。
しかし、本件補助金の交付当時、下関市において、新たな第三セクター事業を計画しており、そのために、是非とも同市に対する民間の信頼をつなぎ止める必要があったというような事情は認められないのであり、そうすると、右にいう信頼の維持も柚象的なものにすぎず、実体を伴ったものではないというべきである。
(4)もっとも、第三セクター方式による会社の事業が、営利企業的性格のみならず公共性をも有し、このため、当該会社に出資したり、これと取引関係に入る民間企業の側にも、地方公共団体との閲係から、ある程度採算を度外視して参入せざるを得ない部分があることは否定し得ないところ、これによれば、その経営が破綻した場合に、地方公共団体が補助金を交付することによって支援するならば、本件会社のような第三セクターの会社に出資しあるいはこれと取引する者にとって、以後における第三セクターとの関係においても同様のことが容易となることは想定される。
しかし、補助金の財源は、当該地方公共団体の住民が納付した税金である上、本来、第三セクターとはえ、民間企業がこれに参加する場合は、その自己判断と責任の下に、危険を負担することも当然あり得ることを前提にして、営利の追求をなさんとしていることは経済法則に照らし自明の理とみられることも考慮すると、かかる補助金の交付すべてに公益性があるとは到底解し難いところでる。
そして、これを本件についてみるに、下関市は、本件会社から本件補助金交付の要請があった平成六年三月の時点で、既に、本件会社に対して一○億円の直接融資及び八億円に係る損失補償付の措置を行っており、しかも長期にわたる累積赤字のため、右合計一八億円が回収される可能性は全くない状態であった。したがって、この時点において、本件会社に対し、更に本件補助金合計八億四五○○万円を投入したとしても、そのことによって本件会社が立ち直り、本件事業が再開される見込はまずない状況に陥っていたにもかかわらず、これがなされたということについては、経済的な面も含めおよそ不毛な処置であったものといわざるを得ない。
そして、このことからすれば、結局、下関市住民にとっては、右八億四五○○万円もの巨額の税金が、直接、間接いずれを問わず、住民の福祉の増進のために使用されないまま失われるはめになった結果がもたらされたも同然であり、これにより、納税者たる同市住民の被った損失は、決して看過し得ないところと解される。
さらに、被告及び補助参加人が、本件補助金の交付に公益性が存するとする理由の一として挙げるところの、本件補助金を本件会社に交付しないと、第三セクターを採用している全国の地方公共団体に多大の迷惑を投げかける旨の主張は、公益性の有無とはおよそかけ離れた事柄に係るものであり、失当といわざるを得ない。
(5)右によれば、客観的にみた場合、本件補助金の交付と、これによる下関市住民の福祉の増進という公益性の存在との間には因果関係を肯定し得ないところであって、公益性の要件は満たされておらず、したがって、違法であることを免れないというべきである。
二 争点Aについて
1 本件の場合、被告は、本件補助金の交付につき、下関市の信頼の維持が、まさしく公益性であるとの認識に立っているものと認められ、その旨を補助参加人とともに主張しているところ、これによれぱ、被告において、当時の下関市長として、故意はともかく、本件補助金の交付が公益性の要件を満たしていないと認識すべきであることにつき、あるいは、少なくとも、公益性の要件に該当しない事由をそれに当たると誤信したことにつき、過失があったというべきである。
2(一)もっとも、本件の場合、本件事業の企図や本件会社の設立は、元々、泉田市長の発案かつ主導の下に推進されたもので、被告は、泉田市長の後任として、これらを引き継いだ立場にあり、また、本件補助金の交付については、下関市議会の議決を得た上で行ったこと等の経緯が存することも事実である。
(二)しかし、議会への議案の提出や予算の調整及び執行等の権限を与えられている普通地方公共団体の長(地方自治法一四九条一項一号、二号)に対しては、一方で、これらの権限を適正に行使せしめるため、たとい、自らが担任する事務のうちに前任者を引き継いだものがあったとしても、それをそのまま受容する必要はいささかもなく、とりわけ、当該事務が、住民の税金をもって充てられる事項については、本件でも問題とされる公益性の有無につき十分に検討し、これのないことが判明したときは、直ちに自らの判断で、その執行ないし推進を回避すべく、相当な措置を講ずべきことが義務づけられているものと解される。
ましてや、本件の場合、関西汽船が、下関市に対し、本件裸傭船契約に基づく傭船料の支払について、本件会社とともに責任をもって解決するよう求める根拠とし、また、本件補助金交付の一因ともなった本件確認書は、泉田市長において、自らこれに暑名し、公印も押されているものではあるが、同市役所内部でも一部の者にしか知らせず、しかも、同市議会の承認を得ることのないまま関西汽船に送付した内簡文書であり、その内容も、法的にみて、およそ同市の責任を基礎付けるものとはいい難いことを考慮すれぱ、被告としては、むしろ、泉田市長のこのような行為を踏襲することなく、その主体的判断により、税金の無駄遣いを回避するような対応をとることが求められていたというべきである。
(三)そして、右の見地に照らした場合、被告において、前記1で認定した認識に基づき、本件補助金の交付をなしているということからみると、右交付当時、下関市長であった被告には、泉田市長を引き継いだ立場にあったことを考慮しても、なお、右に指摘した公益性の有無の検討と、それに基づく相当な措置(なわち、補助金に係る議案の上程又は本件補助金交付の回避及びこれらに関連する処置。)をとるべきことにつき、前記義務を怠っていたものと認めざるを得ず、また、前記下関市議会の議決があ
、ったことをもって、右認定が左右される筋合のではないというべきである(最高裁判所大法廷昭和三七年三月七目判決・民集一六巻三号四四五
頁参照)。
三1 以上によれぱ、被告は、前記二で認定した過失に基づき、本件会社に対す違法な本件補助金の交付をなしたという不法行為により、下関市に対し、本件補助金相当額の損害を与えたものと認められる。
2したがって、被告は、下関市に対し、不法行為に基づく損害賠償として、本件補助金相当額合計八億四五○○万円の支払義務を負っていることとなる。
第四 よって、下関市に代位した原告らの本訴各請求はいずれも理由があるからこれらを容認する。
山口地方裁判所第一部