No.5
2008年(平成20)9月10日発行
中国ブロック選出・山口県弁護士会
日弁連 副会長 田川章次

第5回理事会
2008年8月20日・21日
日弁連17階会議室

今回の理事会では、多くの議題が上程されましたが、これまでの法曹人口問題のようなホットな議題が議決をされていることから、目玉と呼べるほどのホットな議題が見当たらず、粛々と進められました。その議題の中で、注目すべきものを紹介します。


裁判員裁判
 来年2009年5月より、いよいよ実施となる裁判員裁判ですが、マスコミの一部に制度設計の不十分なところを否定的にとらえ国民の多くが実施に疑問をもっている等という世論調査の結果を報じています。そのような報道を受け、野党の中に、裁判員裁判は延期すべきだという意見を表明するものが出ました。これに対し、日弁連執行部は、総選挙が目前に迫っているという状況を踏まえ、後戻りをさせてはならないということから、裁判員制度実施に向け日弁連は今後とも万全の体制で準備当たる旨、緊急に会長声明を発表すること決め理事会に報告承認を求めました。その要旨は左記囲みのとおりです。

会長声明要旨
 密室の中での違法不当な取り調べの横行と自白をしないと保釈が許されないという人質司法のもと、いったん虚偽の自白をすると撤回を許されないという調書裁判で99.9%が有罪判決という状況下で有罪判決を出すことに慣れてしまった刑事裁判の根本的な欠陥を変えるためには、市民のみなさんが裁判に関与していただき、無罪推定の大原則の下「見て聞いて分かる」法廷で判断して貰うことが不可欠です。参加に不安を覚える市民の方が多いという事前のアンケートがありますが、同じ市民が司法に直接参加し、検察官の不起訴の判断の妥当性を判断する検察審査会では、守秘義務を負いつつも、多くの市民が日常生活を中断して参加されていますが、参加前のアンケートではやはり多くの方が参加に消極的です。ところが、一度審査員を経験されると、実に96%の方が「参加して良かった。」というご意見に変わっています。裁判員裁判でも同様な傾向になると考えられます。今の裁判員制度には改善すべき点はいくつもあり、取調の録画化なども不十分です。これらの欠点を改善する動きを進め、人質司法と調書裁判の弊害を打破することが大切です。裁判員裁判を延期したのでは何よりも根本的欠陥抱えた現行の刑事裁判が続く結果となるだけです。多くの冤罪事件を支援し、刑事弁護を担ってきた日弁連は、裁判員裁判制度を延期して今の刑事裁判継続するのではなく、この制度を実施の上、欠点があれば、実施状況をみながら改善していくという方法で進めるべきであると考えます。

法曹人口問題

 日弁連7月理事会で承認された法曹人口に関する緊急提言は直ちに公表されて、マスコミでも大きく取り上げられ、各界に大きな波紋を及ぼしています。そのキーワードは「法曹の質」にあるようです。


マスコミ関係

 提言発表後の多くの新聞論調は、日弁連は司法改革の旗を降ろすのかと厳しいものでした。しかし、最近になって、一部の地方紙が理解を示すような社説を載せるようになっています。また、最近の週刊誌の中には、司法試験合格者の激増によって法律の基本も知らない弁護士が出てきており、大変国民にとって由々しい事態が発生しているという記事を載せているものがあります。


政界
 提言発表後、町村官房長官は、日弁連の提言を批判し、日弁連の見識を疑うとまで述べたのです。私は、この人にだけは、こんなことを言われたくないというのが、率直な気持ちです。一方、同じ福田内閣の鳩山法務大臣や河井副大臣等は、強硬な法曹人口減論者でした。特に、河井副大臣は司法試験合格者数を1200名程度にすべきだという自民党若手の急先鋒ですが、今度の内閣改造で副大臣の職を解かれた後、日弁連に退任挨拶に来られた際、その考えを聞きました。同氏は、法科大学院のあり方に疑問があるので、いろいろと現場に出かけ先生方とも論議をしたが、今のロースクールは、松・竹・梅と格差がひどく体をなしていないものがあるので整理を免れないというもで、この考えロースクールバッシングの基礎にあって法曹人口大幅減という主張になって行くのだなと思いました。 理事会冒頭に宮崎会長より、内閣改造により新しく法相となった保岡氏は、自民党司法制度調査会の幹部で、法曹人口については厳しい見方をしており鳩山前大臣の法曹人口減論とは異なる。今後の自民党調査会の布陣と動きに注目したいとの発言がありました。

最高裁・司法研究所

 提言発表直後は、大変冷ややかな反応でしたが、その後、2回試験の不合格者の試験結果を明らかにし、急増した司法修習生の中には、法律の基礎知識に不足する者がいるだけではなく、法曹としての適格性に疑問があるのではないかという事実を明らかにしています。このような動きは、日弁連提言が法曹の質の問題を提起したことによる波及的効果と言えるのではないでしょうか。


法科大学院

 提言発表後、日弁連は一体法科大学院教育に対し何をしてくれたのかと厳しい批判が寄せられていますが、その一方で、政界を中心とするロースクールバッシングの嵐を受けて、日弁連の提言が司法改革推進の旗を降ろしたものではなく、その条件整備確立の間のスローダウンであることが理解され、期待するという側面もあるようです。そして、日弁連提言を期に、法科大学院の数及び大学院生数の多さに関心が集まり、法科大学院における教育の在り方が、コアカリキュラムとか教育の到達点という形で論議されるようになってきたのは、大きな前進と評価できるのではないでしょうか。


法曹人口問題検討会議の発足

 提言発表により法曹人口について検討してきたワーキンググループは解散し、新しく本格的提言を策定する委員会として法曹人口問題検討会議が発足することになりました。中国ブロックからは、広島の久行康夫会員が会長推薦で、鳥取の長村みさお会員が中国弁連推薦で委員に出て頂くことになりました。久行会員には、緊急提言ワーキンググループでの経験を活かして、また、長村会員は日本海側の会員、若い会員、女性会員の声を代弁して下さるよう期待しています。


人権擁護大会富山大会
 今年の人権大会は、富山市で10月2,3の両日開かれます。2日は、シンポジウムがあり、次のようなテーマで行われます。

第1分科会 憲法改正問題と人権・平和のゆくえ
第2分科会 安全で質の高い医療を実現するために
−医療事故の防止と被害の救済のあり方を考える−
第3分科会 拡大するワーキングプアー
−人間らしく働き生活する権利の確立を目指して−

 10月3日は、これらの分科会の論議を踏まえ、2つの宣言案と一つの決議案が上程審議されます。第3分科会の実行委員会は、生活保護問題緊急対策委員会、両性平等、労働法制、人権擁護等の委員会から選出された委員で構成されていますが、中核は生活保護問題緊急対策委員会で、その担当ということで、私が、この分科会実行委員会担当副会長となりました。
 この実行委員会メンバーの意欲は、素晴らしいものです。ワーキングプアーの実態と対策を見出すため国内のみならず、アメリカ、イギリス、デンマーク、韓国等の諸外国での調査まで行いました。その調査費用も、大部分は手弁当でした。メンバーのこの意欲は、現在の格差社会における弱者の救い難い窮状を明らかにし、その解決策を探り、提示することにあります。このような思いから作成された決議案でしたが、難解で膨大なものだったため、6月の正副会長会議では、承認できないということになり、実行委員会に対し、決議の趣旨と論点を絞って明確にし、理由部分は半分程度に圧縮するよう求めました。ところが、派遣労働等を巡っての意見がまとまらず前進しないのです。そこで、4名の副会長立会いで調整し最終案を成立させ、7月末の正副会長会議も通り、8月理事会でも無事承認され、本番富山人権大会の決議案として上程されることになりました。これで、決議のない人権大会分科会の汚名を回避できたと安心しました。


国際人権自由権規約委員会第5回政府報告書審査
代表団17名をジュネーブに派遣

 この10月15、16の両日、10年ぶりとなる国際人権自由権規約委員会による第5回政府報告書審査がジュネーブで行われます。「自由権規約」とは、1966年12月の国連総会で採択され、76年に発効した「市民的及び政治的権利に関する国際規約」を指します。これは、48年の「世界人権宣言」を、国際的に拘束力ある規範にするためにつくられたもので、日本は79年6月に批准しており、この規約の内容は、日本国内で憲法とともに高位の人権規範としての法的効力をもつものです。
 この審査は、政府報告書とNGOから提出された報告書などに基づき建設的会話がなされ、人権基準の実施を促進し、改善するために行われます。これまでに取り上げられた論点は、代用監獄、個人通報、国内人権機関、死刑、婚外子差別など多岐に渡っています。
 日弁連は、日本最大のNGOとして政府の報告書に対する意見書をすでに提出しており、さらに、今般アップデイトリポートを作成し理事会の承認を得て提出しました。これらを、前記両日の審査で有効なものとするために、有効活発なロビー活動を展開すべく代表団を派遣することを正副会長会議で決定しました。このロビー活動は、規約委員会の委員やスタッフへの口頭、文書でのアピールや代用監獄の危険を知らせる「志布志事件」の映画上映も行うことになっています。私は、その団長の重責を務めることになりましたので、期待に応えるべく団員の総力を結集して成果をあげてきたいと決意しております。



国際人権自由権規約委員会正副委員長招聘

 10月15・16の両日ジュネーブで開催される国際人権自由権規約委員会第5回政府報告書審査に先立ち、日本における同規約の実施状況を調査と、日本の関係者と懇談して頂くため、日弁連は、大阪弁護士会と共同して委員長のリバスさんと副委員長のシーラーさんのお二人の来日を要請していました。この招請に応えて、お二人は、この9月17日来日されることが決まりました。20日までは大阪で、22日からは東京での活動が始まります。関係省庁や国会議員との懇談など多様な活動の中で、市民とのふれ合いの場として次のような集まりが設定されました。多くの市民の皆さんが参加して下さることを期待しています。

 なお、23日慰労懇親会は、右欄で紹介した屋形船で行うことになりました。


日時: 2008年9月22日
会場: 明治大学リバテイ・ホール
内容: 16:00〜17:00
 ・NGOとの意見交換会
18:00〜20:00
 ・講演「日本における人権規約の課題」
 ・シンポジウム